いい作品を見た・・・・・
感動したとか、泣いたとか、そういう作品ではないが、物悲しさとか、ある意味、温かさとか・・・ 2007年のイスラエルの作品らしい。
分類的には「コメディ」に入るらしいが、決して腹から笑えるようなものではなく、少しは滑稽だが、とても抑えられた表現だと思う。
ストーリーは、エジプトの警察音楽隊が、文化施設としてイスラエルに招待された。
ところがこの警察音楽隊、目的地をよく似た地名の場所と間違える。 到着はしたものの、向かうべき場所もわからず、その間違えた砂漠の中の街で迷子になるのだが、その町の食堂の女主人や常連客に救われ、一晩の宿を提供された。
私はあまりエジプトとイスラエルの関係を理解していない。 それがこの作品の鍵を握っているらしい・・・・・
そこでネットで両国の関係を調べると、Wikipediaに「エジプト・イスラエル平和条約」という項目があることに気が付いた。
1979年に署名され、アラブ諸国で初めてイスラエルの存在を認めたものだという。 この話にも出てくるのだが、アラブ人である警察音楽隊のメンバー、そしてユダヤ人であるその街の人々。
彼らはアラブ人であるメンバーを温かく迎えるのだが、音楽隊の隊長をはじめ、メンバーは堅物が多く、宿を提供された家の人々ともなかなか話ができない。
そこには静けさと、物悲しさが漂うのだが、隊長ともう一人、唯一の女たらしの若い隊員を我が家に泊めた女主人は、なんとか彼らの心をほぐそうと努力し、隊長を誘い街に出る。
女主人は少しその隊長に興味があり、なんとか近づこうとするが、堅物の隊長は、なかなかその女主人を受け入れようとはしない。
一方の女たらしの隊長は別行動で、食堂の常連の客とローラースケート場へ遊びに行く。
しかし、一緒に行った常連の男も、堅物で女の口説き方を知らない。
積極的に近づこうとする女を泣かせてしまうが、どう対処すべきかを知らず、その女たらしの隊員は、恋の手ほどきをする。 家に戻った女主人は「エジプト映画」のファンだと隊長にいうのだが・・・・
そして「今晩は映画のようだった・・・・」とさらに隊長に近づこうとしたとき、初めて隊長は自分の責任で息子と奥さんを亡くしたことを告げる。
女主人はそれでも何とか隊長に近づこうとするが、隊長は早く寝たいとそれを受け入れず、結局若い女たらしの隊員が、女主人と一夜を共にする。
こんな、なんだか煮え切らないストーリーなのだが・・・・・ しかし、エンディングで警察音楽隊が招待された会場で隊長が歌を披露する。
ああ夜よ ああ私の夜よ
私の心が解き放たれていくよ 永遠に光り輝く
真夏の太陽の下で 忘れ去られた日々が 美しく甦るよ 二人の過去の思い出が
孤独の甘い日々が もし人生が もう一度あるならば
一瞬たりとも変えたくないよ この素晴らしい日々を
明るい光が地に満ちて 私たちの良い心が 生み出していく 恋に焦がれる気持ちを
それに対して、返歌として女性が
何を見ても あなたを思い出す 心を込めて
お話ししたいの でも耳に心地よい話にも あなたは背を向ける
やさしいあなたを探し求める私 心を込めてお話したいの 冷たいあなたに
神のお導きを あなたは今 どこに? なぜ話をしてくれないの?
若い恋があなたを変えたの? いったい何が起こったの?
いとしいあなた どこにいるの? 私の心の中に
棲みついた人 何を見ても あなたと比べてしまう 何をしていても
忘れられないのよ 時が過ぎても 思いは募るばかり 時が繰り返し聞く
「あなたはどこ?」と 冷たい あなたに 神のお導きを おしゃべりしたり
黙り込んでしまったり 若い恋が あなたを変えたの? いったい何が起こったの?
これを単に「男と女の恋の歌」と聞くあなたは、バカである。
これは明らかに、イスラエルからのエジプトに対する求愛の歌だと思う。
この作品に登場するエジプトの警察音楽隊の堅物で煮え切らない性格と、積極的に相手を受け入れようとするイスラエルの食堂の女主人と常連の客。
それには単に娯楽映画としてのコメディではなく、明らかに「文化の違い」そして「過去の歴史の清算」という、主張を声高に叫ぶことなく、暗に示す、とても素晴らしい作品だと思う。
だからこそ第20回東京国際映画祭東京サクラグランプリ(最優秀作品賞)、第20回ヨーロッパ映画賞主演男優賞、ディスカバリー賞受賞。 そして第60回カンヌ国際映画祭「ある視点部門出品作品」だという。
私は常にいうのだが、離婚の原因は一方的に片方が悪いのではなく、それは「互いに」原因があり、そして自分を知ってほしいとか受け入れてほしければ、自分も相手を知る努力をしなければならないし、また相手を受け入れなければ決してうまくいかない。 自分の主張を押し付けるより「自分半分」「相手半分」・・・・・