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「なにわの名工」と「現代の名工」

この「デジタル画像による文化財復元」は、読んで字のごとく「デジタル」を用いる。
ただ、コンピューターを使った復元というと、多くの人は、どんなものでもキーボード一つたたけば、あとはコンピュータが自動でやってくれる。そう思われるが、現実はまるで違う。
 
つまり、一つの完成された技術があり、それを用いればどんなものでも復元できるという、魔法のような技術があるわけではなく、たとえば撮影だけをとっても、「カラー撮影」「赤外線撮影」「紫外線撮影」「蛍光撮影」「斜光撮影」等、多くの撮影法があり、それぞれは僕の発明でもなく、昔から使われている技術である。
ただ、それぞれ1枚写真を撮れば済むわけでもなく、文化財は保存状況が一つ一つ違う。だからまず撮ってみてその上がりを見て、さらに撮り直す。
 
それを何度も何度も繰り返し、ベストな画像を作る。また、それぞれの撮影法で得られる情報も違う。
その中から何を取捨選択するかは、まさに試行錯誤の中で得られるノウハウとなる。
 
つまり、それらは「」と呼ばれるアナログの世界と、まったく変わらない。
だから、講習会を開き、受講すればその日から誰でもできるという仕事じゃない。
経験の蓄積」を必要とする職人の世界とまったく同じである。
 
そして何よりも僕が一番大事にするのは「先人の思い」である。
思いは分析器で測れないし、写真にも写らない。
でもその思いを復元できなければ、器だけ同じものが作れても、そこに収まる「」は存在しない。
じゃ、その魂を復元する方法は??
 
答えは作業者の「資質の高さ」としか言えない。
それは、己が磨かなければ、決して向上することがない。
 
僕が復元は物質ではなく、「込められた先人の思い」こそ大事だというのは、そこには「文化財」と呼ぶのにふさわしい何かが詰まっている。
それをちゃんと理解できなければ、決して復元することはできないと思う。
 
と、前置きが長くなったが、厚生労働省には「現代の名工(卓越した技能者)」表彰制度」というものがあるらしく、毎年150人程度表彰される。
 
その国の制度に準じ、各都道府県でもそれぞれ名工の表彰制度がある。
以前に枚方に事務所を長年おいていた。
その時、商工会議所の推薦で「なにわの名工」に応募した。
推薦書は推薦者が書くのだが、何分この仕事は世の中に僕一人。
説明文も結局自分で書くしかなかった。
 
で、いつの間にかその書類は提出され、「なにわの名工」という称号を頂いた。
 
時が経ち、事務所を京都府へ移転した。
早速京都府でもこの制度を見つけ、町長の推薦状を書いてもらったが、こちらはちゃんと町の職員が書いた。
さらに、京都府はさすがは「職人の町」だけあって、わざわざ府の職員の人が二人も、仕事場に面接に来た。
つまり、名工にふさわしいか?いろいろと質問された。
 
やっとのことで、京都府の「現代の名工」という称号を得たが、さすがに厳しいだけあって、あとのサポートも素晴らしい。
 
大阪の「なにわの名工」は、表彰式も小ホールの様なところで、代表者一人だけが壇上に上がり、大阪府知事から賞状を頂く。
一方の京都府の「現代の名工」は、京都府のレセプション会場で、金屏風をバックに、一人一人が京都府知事から表彰状を受け取り、さらに一人ずつのポートレートの撮影と集合写真の撮影までしてくれる。
 
また「後継者育成」のための補助金制度まであり、サポートは素晴らしい。
 
次に目指すは日本の「現代の名工」である。
 
(資)文化財復元センター  大隈 剛由
なにわの名工 現代の名工
大阪府のなにわの名工 京都府の現代の名工

デジタル復元に使われる技術について

  

「デジタル復元」という言葉は、時々マスコミで取り上げられる。

7年ほど前にNHKのニュースで、初めて僕の技術が紹介された時、 アナウンサーは「CG」という言葉を使った。しかし、それは間違いであった。

つま り、「CG」はコンピューターで描かれる「絵」であり、存在しないものもリアルに描ける。

  
一方僕の復元のベースは「写真画像」であり、写真は存在しないものは写らない。

ただ、「写真」と一口で言っても、人間の目に見えるのは、大まかに言えば「虹」に現れる色の部分(400nm~700nm)の情報だけであり、これは一般のデジカメで記録される。

  
ところが、光には肉眼で確認できない「赤外域」や「紫外域」が存在し、そこにも実は多くの「情報」が記録されている。

   
 

 

可視域  

  
それらは、たとえ肉眼で「朽ち果てた姿」と化した絵馬などであっても、目に見えない領域にも当時の姿が「痕跡」として残されていることが多い。

そして、実はその目に見えない領域であっても、特殊な撮影法を用いることにより、「写真画像」として記録でき、その画像は肉眼でも見ることができる。
  

●赤外線写真

よくニュースで、発掘された木簡の文字が読めたと話題になる。

それらは墨が赤外域で記録されるからであるが、土に埋まっていた木簡は土中の水分を多く含む。

すると、墨は木の表面から、木の内部へと染み込んでいき、表面の文字は見えなくなる。

つまり、表面の文字は肉眼では見えなくても、実は木の内部に残されており、赤外線は墨に反応し、さらに薄いものは透けて見える性質 を持つので、内部に残る墨文字は写真として記録される。

と、いうと、いかにも赤外線を用いれば、なんでも見えるように誤解されるが、実は赤外線は墨は記録できるが「顔料」にはあまり反応しない。

さらに、土に埋まる木簡はともかく、地上で風雨にさらされ薄くなった絵馬などは、たとえ赤外線を用いても、情報が残っていないことが多い。

それは地上にある板に書かれた墨文字は、木の内部に染み込むことなく、木の表面から落ちてしまう。

すると赤外域には「情報」は残らないことになる。

  
蓮如上人・現状画像 蓮如上人・復元画像
蓮如上人御真筆掛け軸・現状画像 蓮如上人御真筆掛け軸・復元画像
  

●紫外線写真

紫外線は特に警察の鑑識などで、書面の偽造を確認したり、絵画の修復跡を探すのに用いられる。

復元においては、顔料、特に白塗りの下地の確認に有効である。

  
現状カラー画像 紫外線画像 赤外線画像
カラー撮影画像 紫外線撮影画像 赤外線撮影画像
   

  
●蛍光写真

紫外線写真が、可視域をカットした「紫外域」だけの写真であるのに対し、蛍光写真とは、可視域で紫外線を当てることにより、蛍光作用を起こす物質があり、その蛍光作用を記録するものである。

また、「可視域内蛍光撮影法」と呼ばれるものもあり、それは紫外線を当てず、ある波長の光を当てることにより、蛍光作用を記録するものである。

  
27 41
現状画像 可視光内蛍光撮影による復元画像
  
●斜光撮影

薄くなった絵馬などは、赤外線では情報がないことが多いが、しかし木質は風雨にさらされると「痩せる」ことが多い。

しかし、墨の炭素は落ちても、木の表面には墨に含まれる膠質が残ることがある。

すると、その膠は、ちょうどニスの様に木の表面を目に見えない膜でコーティングした形となり、木が痩せるのを防ぐことがある。

すると、わずかだが「段差」が残り、それを斜めから光を当てると、文字が確認できることがある。

  
現状画像 33
カラー撮影画像 斜光撮影画像

赤外線域蛍光画像

先日話題にした「高松塚古墳壁画集」にポリライトを用いた撮影画像が納められている。
どうも青い光を使い、黄色いフィルターを用いて撮影されたものが多く、それらは「カラー画像」として載せられているが、それと同時に、「赤外線域蛍光画像」と書かれたモノクロ画像も載せられているものがある。
その二つの画像は、一見するとカラー画像をそのままモノクロ画像に置き換えた様にも見える。
つまり同じ部分が蛍光を発しているのである。
ただ、この壁画集には、この「赤外線域蛍光画像」とは別に、「赤外線画像」と書かれたものがいくつも載せられている。
こちらの赤外線画像は、一般的なモノクロの赤外線画像であり見慣れたものであるが、「赤外線域蛍光画像」はそれとは明らかに雰囲気が違い、まるで「ネガ画像」を見ているような印象を受ける。

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