「デジタル復元」という言葉は、時々マスコミで取り上げられる。
7年ほど前にNHKのニュースで、初めて僕の技術が紹介された時、 アナウンサーは「CG」という言葉を使った。しかし、それは間違いであった。
つま り、「CG」はコンピューターで描かれる「絵」であり、存在しないものもリアルに描ける。
一方僕の復元のベースは「写真画像」であり、写真は存在しないものは写らない。
ただ、「写真」と一口で言っても、人間の目に見えるのは、大まかに言えば「虹」に現れる色の部分(400nm~700nm)の情報だけであり、これは一般のデジカメで記録される。
ところが、光には肉眼で確認できない「赤外域」や「紫外域」が存在し、そこにも実は多くの「情報」が記録されている。
それらは、たとえ肉眼で「朽ち果てた姿」と化した絵馬などであっても、目に見えない領域にも当時の姿が「痕跡」として残されていることが多い。
そして、実はその目に見えない領域であっても、特殊な撮影法を用いることにより、「写真画像」として記録でき、その画像は肉眼でも見ることができる。
●赤外線写真
よくニュースで、発掘された木簡の文字が読めたと話題になる。
それらは墨が赤外域で記録されるからであるが、土に埋まっていた木簡は土中の水分を多く含む。
すると、墨は木の表面から、木の内部へと染み込んでいき、表面の文字は見えなくなる。
つまり、表面の文字は肉眼では見えなくても、実は木の内部に残されており、赤外線は墨に反応し、さらに薄いものは透けて見える性質 を持つので、内部に残る墨文字は写真として記録される。
と、いうと、いかにも赤外線を用いれば、なんでも見えるように誤解されるが、実は赤外線は墨は記録できるが「顔料」にはあまり反応しない。
さらに、土に埋まる木簡はともかく、地上で風雨にさらされ薄くなった絵馬などは、たとえ赤外線を用いても、情報が残っていないことが多い。
それは地上にある板に書かれた墨文字は、木の内部に染み込むことなく、木の表面から落ちてしまう。
すると赤外域には「情報」は残らないことになる。
蓮如上人御真筆掛け軸・現状画像 | 蓮如上人御真筆掛け軸・復元画像 |
●紫外線写真
紫外線は特に警察の鑑識などで、書面の偽造を確認したり、絵画の修復跡を探すのに用いられる。
復元においては、顔料、特に白塗りの下地の確認に有効である。
カラー撮影画像 | 紫外線撮影画像 | 赤外線撮影画像 |
●蛍光写真
紫外線写真が、可視域をカットした「紫外域」だけの写真であるのに対し、蛍光写真とは、可視域で紫外線を当てることにより、蛍光作用を起こす物質があり、その蛍光作用を記録するものである。
また、「可視域内蛍光撮影法」と呼ばれるものもあり、それは紫外線を当てず、ある波長の光を当てることにより、蛍光作用を記録するものである。
現状画像 | 可視光内蛍光撮影による復元画像 |
●斜光撮影
薄くなった絵馬などは、赤外線では情報がないことが多いが、しかし木質は風雨にさらされると「痩せる」ことが多い。
しかし、墨の炭素は落ちても、木の表面には墨に含まれる膠質が残ることがある。
すると、その膠は、ちょうどニスの様に木の表面を目に見えない膜でコーティングした形となり、木が痩せるのを防ぐことがある。
すると、わずかだが「段差」が残り、それを斜めから光を当てると、文字が確認できることがある。
カラー撮影画像 | 斜光撮影画像 |
先日話題にした「高松塚古墳壁画集」にポリライトを用いた撮影画像が納められている。
どうも青い光を使い、黄色いフィルターを用いて撮影されたものが多く、それらは「カラー画像」として載せられているが、それと同時に、「赤外線域蛍光画像」と書かれたモノクロ画像も載せられているものがある。
その二つの画像は、一見するとカラー画像をそのままモノクロ画像に置き換えた様にも見える。
つまり同じ部分が蛍光を発しているのである。
ただ、この壁画集には、この「赤外線域蛍光画像」とは別に、「赤外線画像」と書かれたものがいくつも載せられている。
こちらの赤外線画像は、一般的なモノクロの赤外線画像であり見慣れたものであるが、「赤外線域蛍光画像」はそれとは明らかに雰囲気が違い、まるで「ネガ画像」を見ているような印象を受ける。