お盆の最中、しかも終戦記念日であった。
当社のホームページ上の問い合わせフォームから、問い合わせが入った。
叔父が残した古い写真アルバムがあり、その下に白い紙が貼ってある。
その文字が消えていて読めないとのこと。
早朝にそれを読み、写真を添付してもらい費用の相談をした。
早速土曜日に出社して作業を開始した。
古い写真アルバムにはよくその下に、紙が貼られ説明書きされている。
もう7~8年前になるが、「正岡子規の愛した女」として、噂される女性の写真の下にもメモ書きがあり、それを復元したことがある。
現状画像 | 復元画像 |
あれは明治時代の話だが、今回は昭和の時代しかも戦前のものと思われる。
紙に書かれた文字は、多くの場合、墨書きは赤外線に反応し、万年筆などのインクで書かれたものは、紫外線に反応する。
上記の復元では、「可視光内蛍光撮影法」と呼ばれる特殊な波長の光源と、特殊フィルターを用いることで、「蛍光反応」を記録したものである。
ほとんどのものは、これらの技術で文字が読める。
ところが送られてきたアルバムは小さいものだが、27枚の写真が貼られ、それぞれに白い紙が貼られている。
虫眼鏡てみても、文字らしいものはほとんど見えない。
とはいえ、必ず見えるものと思い、1つの写真に貼られた白い紙を、条件を替え、さまざまな撮影法でテスト撮影を行った。
しかし結果は芳しくない・・・・
そこでまた別の写真に添付された紙も試してみた。
何やら、文字らしきものは見えるものの、決して判別できるレベルじゃない。
とは言え、前金をいただいている以上は、見えませんでしたではProとしての名が廃る。
いろいろ試した中で、一番可能性の高い方法で、27枚の写真の下に貼られた紙だけを、拡大撮影し、それを並べて比較をしたのだが、やはり結果は芳しくない。
どうもおかしいと思い、さらに虫眼鏡で、その紙の一つ一つをまじまじと見てみた。
何やら、墨文字の薄いものを確認できる紙もあったのだが・・・
よくよく目を凝らしてみてみると・・・
どうもその紙の表面ががさついているし、部分的に凸凹があったりする。
そこで初めて気づいたのだが、その紙に書かれた文字は、何らかの理由により、カミソリのような鋭い刃物を紙の端にあて、ピンセットのようなもので、表面の一皮を剥ぎ取ってあるように思えた。
復元の技術は「残された痕跡」の「視覚化」の技術であることは、HPにも記してあるのだが、絵馬などの板の上に紙を貼って描かれた絵などは、その紙がはがれると、下の板には痕跡は残らない。
今回もまさにそれと同じで、紙の表面をはがされると、中にはほとんど痕跡は残っていない。
ただ、全くないわけではなく、かろうじて「推測」を加えることで、そこに書かれていてものを知ることもできなくはない。
そんなわけで、その写真に写った人物や周りの風景は、関係者としての記憶をたどり、そして推測できるデーター一式を基にお渡しし、ご本人にお任せした。
表面をうまく剥がされた写真のメモ書き |
(資)文化財復元センター おおくま
先週、ちょっと変わった仕事が舞い込んだ。
電話で問い合わせてきたのだが、車のシートのスポンジに日付がスタンプしてあるが、その日付が薄くて読めない。
簡単に考えたのだが、スタンプは何らかのインクで押されているはずだから、紫外線に反応するか、あるいはポリライトを使えば蛍光反応を示す。
そう確信していたが、実際に作業にかかると、紫外線はおろか、赤外線も全く反応しない。
さらに頼みの綱のポリライトによる「蛍光反応」も、何度も綿密に試したが、効果はほとんど表れない。
送ってこられたシートは3つあり、そのうちの一つは肉眼でも部分的にはうっすらと見えている。
にもかかわらず、特殊撮影では全く反応しない。
かといって、読めませんと返したら、Proとしてのプライドがたたない。
無い知恵を絞り、いゃ試行錯誤の経験がないだけの話だが、一晩布団の中で考え、あくる日にその方法を試すと、若干日付が見えてきた。
かといって、あっさりと読めるほどでもないので、考えた末、本来ならどんなスタンプが押されているのか?その見本画像を送ってもらっていたので、その日付に使われるフォントを探し当て、その見本上に重ねてみた。
それを頼りに、うっすらとしか見えず、しかも部分的にしか見えない数字を探り当てる。
つまり、1部分でもわかれば、そこに痕跡が残る可能性のある数字をまず探す。
その中から、「年・月・日」だから、組み合わせは限られているわけである。
言い換えれば、「消去法」とでも呼ぶべきなのか、ありえない組み合わせを省いていけば、部分的な痕跡からでも、若干の推定を交えることで、とりあえずは、製造年月日は解読できた。
これもよい経験となった。
(資)文化財復元センター おおくま
今朝ある人から電話が入った。
ちょうど1年ほど前に、関東の「マルコー」という会社の社長から、銀行の計算書の文字の復元の依頼を受けた。
この件は依頼主より、復元見本として使う許可を得ている。
その計算書をめぐり、銀行と争っているという。
当社は「ノンカーボン紙」の消えた文字を復元する技術を有するのだが、過払い請求や契約書にかかわるトラブルで、裁判になっているケースで、その証拠のために依頼を受けるケースが多い。
このモリコーの社長からの依頼もどうもそうらしく、今朝電話があった内容は、融資の支払いの問題だろうが、1年間弁護士を通して話し合ってきたが、銀行がそれを認めようとしないということらしく、裁判を始めたが、銀行の提出してくる書類はコピーを切り貼りしているように思えて、たとえば使われているタイプライターの文字の形で、年代がわからないかとか、使われている紙の年代測定できないか?とか、いろいろと苦労されている様子。
当社は直に手がけていないので、科捜研などのOBの天下り先の会社を紹介した。
そこで、せっかく社長の許可を得ている復元なので、見本として使わせてもらうが
現状画像 |
現状画像を見れば、これがノンカーボン紙による計算書であることは確かなので、まず特殊光源を使った復元を試みた
特殊光源による復元 |
すると、現状画像で見えている青い文字の部分が、くっきりと読める。
ところが肝心な金額の部分が、どうもノンカーボンのコピーが残るような用紙になっておらず、その部分が全く読めない。
そこで斜光により調べてみると
ドットインパクトプリンターの痕跡 |
どうも昔のドットインパクトプリンターにより、金額は書き込まれていることがわかった。
そこで、その書類全体を斜光で調べると、いろいろとその痕跡を見ることができた。
ただその斜光の画像は影を見るわけなので、とても見にくいので、特殊光源で得られた情報と、斜光撮影で得られた情報をカラー画像に合成してみた。
復元された消えた文字 |
するとこんな結果なのだが、この元データーは1億6千万画素ほどある大きなものだが、ネット上にはアップできないので、いくつかの部分の拡大画像を御覧に入れると
こんな感じに当時のドットインパクトプリンターの痕跡が残っていた。
当社の復元記録は、民事裁判でも証拠として採用されることがある。
民事裁判は裁判官の主観がその結果を左右することが多く、裁判官がそれを証拠として認めるかが、大きな勝敗を決める要因となる。
(資)文化財復元センター おおくま
当社では蛍光X線分析装置を導入しており、デジタル復元に顔料分析による結果を反映させていますが、それを説明する動画を2点作成し、YouTubeにアップしてあります。