2011年11月
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不思議な話・その3
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●甦った弥勒菩薩
 
この笠置の磨崖仏の復元に関しても、不思議な縁を感じている。
 
この仕事を始める1年ほど前に、筑波に住む「特殊撮影」の専門家を訪ねた。
彼はその道では有名な方で、紫外線撮影などを使い、芸術作品と言える写真を撮り、個展などもされている。
 
しかし、彼にはもう一つの顔がある。
彼は、古典写真技術のスペシャリストでもあるという。
NHKの「丘の上の雲」で、最初の場面に城をバックに三人だったか?の記念写真を撮る場面や、時々写真館で記念写真を撮る場面が出てくるが、それを指導したと言われていた。
 
彼とは朝から一日写真談義が尽きず、楽しいひと時を過ごしたが、彼は「湿版写真」に特に詳しいらしい。
彼は自分が撮るために、古いガラス乾板を大量に保有していた。
どうも現代のガラスは、平面性が悪いらしく、古いガラス乾板をはがして使うという。
 
僕が文化財の復元をしているので、彼が見せてくれたのは、古い巻物や石仏などの文化財をガラス乾板で撮った画像である。
 
ガラス乾板は、ほとんど第二次世界大戦以前に撮られたもので、戦後ガラス乾板はフイルムに置き換えられている。
 
その写真の中に、なんとなく気になる磨崖仏があった。
僕も大分に磨崖仏を撮りにいった経験もあり、九州ではないかと思ったが、念のためその写真を預かって帰った。
それをネットで調べるが、なかなか同じものがない。
 
 虚空蔵像菩薩
 
戦前にしてはよくとられているが、判りにくいと負う。
そこで
 
 虚空蔵菩薩アップ
 
これがその磨崖仏のお姿である。
 
ずいぶんネットで検索したら、なんとそれらしいものを発見した。
しかも、どうもそれがスタジオのすぐ近くにあるという。
 
場所は笠置寺
 
つまりここから30キロほどの場所にある。
彫られているのは法輪寺と同じ「虚空蔵仏」とのこと。
 
判りにくいと思うので、弥勒仏の復元時に撮ったものが
 
笠置寺・虚空蔵菩薩磨崖仏 
 
である。
非常に狭い場所にあり、引きがないので見上げた形でしか撮れない。
 
それから1年経ち、弥勒仏の復元が決まった。
 
そして、もう一つおかしなことがあるのだが、うちは「研修生」の募集をしているのだが、時々遠方から応募がある。
そのほとんどは、話だけで終わるのだが、実は復元を始める半年ほど前に、東京の女性が応募してきた。
 
2~3度メールのやり取りをしたが、とりあえず遊びに来るように伝えてあった。
しかし、その後連絡がなかったのが、この仕事を始めた途端に、その彼女が遊びに来た。
 
彼女はあってみると、ちょっと変わった娘で、少し空気の抜けたゴム風船をイメージしてもらえばわかるが、いろいろと質問しても、考え込んでしまい、なかなか返事が返らない性格であった。
 
で、彼女に「どうして急に遊びに来たの??」と聞くと・・・
しばらく考えていたが、やっと口を開き「耳元でささやかれた・・・」といった。
 
いろいろ聞くと、彼女はデジタル画像処理の会社で長年勤め、ずいぶんいい生活をしていたようだが、去年ある友達の影響で、急に文化財に目覚め、仕事を辞め文化財関係の学校に入ったらしい・・・
 
そんな話をしたが、帰りの切符の手配をしており、急いで京都駅まで送ったが・・・
新幹線は出ており、やむなくバスで帰ったらしい・・・
 
で、笠置寺の弥勒仏の復元も山場に差し掛かり、復元画像として書き上げた線画を、東京の彼女へネットを通して送り、毎晩のようにデーターのやり取りをした。
 
最初僕の頭に合ったイメージは、モノクロの赤外線画像を用い、ローキー調に仕上げるつもりだった。
 
確かに画像としては復元できる。
しかし、それでは当時の人が信仰した弥勒仏の神々しさが出ない。
 
記者会見まで1週間と迫ったとき、僕はいきなり「」のイメージが浮かんだ・・・
浮かんだというより、実は降りてきたと感じている。
そのイメージを何度も彼女に伝え、やっと復元画像は完成した。
頭に浮かんだのは、今ほど明りに慣れていない当時の人々にとって、月の光に照らされた弥勒仏はこんな感じじゃなかったか?
 
復元画像は誰が見ても手を合わせたくなるはず・・・・
 
先ほどの虚空蔵仏と同じく、本来永遠の命として刻まれた磨崖仏は、戦火を浴び、粉々に剥がれ落ち、700年の月日が流れた。
 
弥勒仏は復活の日を待ち続け「デジタル」という器を得るため、まず僕に縁を繋ぎ、そしてその画像を創りあげられる技術を持った彼女を、自ら呼び寄せた・・・・
 
 
 笠置弥勒磨崖仏・復元画像
 

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